夢を託す相模原 一戸建て
「私の保証人は、私の心です。
中国では、私を信用したら、保証人いらないです。でも、日本人の保証人はいます。
会社の社長、私の保証人になります」
Rさんは、手まわしよく、スラスラと答えた。
さすが、風にゆれる柳のように、自分を軸に定めて、こちらの気持ちにさからわない。
「わかりました。あなたなら、家主さんもOKするでしょう。 日本人と同じだし、静かに生活してもらえば、問題ないと思います。
入国ビザもあるし、ノンプロブレムね。Kさん、予約手続きをしてください。入居申込書を書いてもらって、オーナーの了解をとりましょうか」
僕は、しばらく空いていたダジュールの室も決めたかったし、Rさんも相当日本のマナーを理解していると思えたので、安心して進めることにした。 入居申込書に、本人と勤務先を書き、連帯保証人の事項を書くと、次は内金をいただくことになる。
予約金が入らないと、すぐキャンセルされてしまうので、業者保護の良いシステムである。 建設省の役人たちは実態を知らないので、消費者の肩ばかり持つが、予約金なしでは、業者がメタメタにやられてしまう。
今は、消費者にあくどい人間が多く、不動産業者はいつも泣かされているのだ。
「契約を終えれば、いつ入居してもかまいません。 契約には、残金と勤務先等の書類が必要ですが、いつ契約に来られますか?」
「私、いそがしいョ。 明日、アメリカへ行って、帰るネ。 日本に帰ったら、すぐに入りたいネ」
「じゃ、二十日からでいいですか?保証人さんの書類も、そろえてくださいね」
「大丈夫。 話できているョ。二十日は、早いネ。 荷物入れるの、ニ十二日ネ。二日早いネ」
「いえ、日本では、入れる日から賃料が発生するのですよ。 本当は、今日からですけど、二十日にサービスしているのです」
「まだ入らない時、室代とるの、おかしいネ。 二十二日からに、してください」
困ったな、という顔で、K嬢は、僕の方を見た。 OKのサインを出した。
中国女性は、しっかり者で、交渉してくるのは当然だ。
「私、滞納しないョ、契約も、来るョ」
十二月分は日割計算となるが、いつから入るかで、日割計算が違ってくる。
K嬢は、何を勘違いしたのか、Rさんは真顔になり、身をそらして、声を大きくした。 「私、日本の大学出ているョ。
T大出ているョ。 T大出ているだから、何も心配なしョ」
手を振り上げて、大きなジェスチャーをしたので、K嬢は唖然とした。
Rさんは、自分は中国人なので、軽く扱われた、と勘違いしたらしい。
僕は、T大と聞いて、どうしてか知らないが、頭の隅で、カチンときた。
昔から、僕はT大の権威を認めない!T大生はただのガリ勉ぐらいにしか思ってない。 人より知識を早く習得したからって、威張るのはお門ちがいだ。
Rさんの前に立ち、にらみつけた。
「T大を出ていようがいまいが、関係ないでしょう。人間は、学歴で生きているわけじゃないですよ。 私はあなたが、契約をきちんと守るか、家賃をきちんと払うか、心配しているだけです。学歴で人間の上下は、決められませんね。 Rさんは、アメリカ、アメリカと言われますけど、関係ないですよ。私達は、契約をいつしてくれますか、と聞いているだけです。 渡米の話など、関係ないでしょう」
僕の出方にいくらかびっくりしたようであるが、「すみません。私、体いそがしいネ。 仕事しているし、大丈夫、収入あるョ」と、自分の主張を譲ろうとはしない。
「それでは、予約をありがとうございました。 今度は、契約をお待ちしております」
僕とK嬢は、彼女がドアを出ていく後ろ姿に、一礼した。
日本人と同じように。
「なかなかやるね。中国人のタイプだよ」
外国人相手にとまどっているK嬢を横目に、僕は感想を述べた。 よほどこの言葉が好きと見えて、RさんはまたT大出を連発した。
きっと、難しい日本の社会に入って、この単語を使えば、難題も吹きとび、よく扱ってもらえ中国では、大きな家に住み、羽振りの良い格好をし、外国に行ける人を高く評価し、尊敬する。
人に評価される為に見栄をはり、これ見よがしに主張する。
だが、あいにくここは日本である。 外国人などいくら威張った通用はしない。
「保証人承諾書は、必ず出してくださいね。 印鑑証明書付きですよ。印鑑、わかりますね。 中国から伝来したから、あなたのお国が本家ですよ。ビザもいりますよ」
「わかっています、社長。 会社勤めているだから、安心してください」
「日本語、上手ですね。話が上手だから、日本の習慣、わかるでしょうね」
「何でも、わかるネ。知らないところ、勉強中ネ。心配ないョ。私はT大出ているだから、大丈夫。」
保証人であるE航空のT社長が来社したのは、翌日である。
僕はモンゴルに旅行した時、現地のE航空に世話になったので、社名は知っていた。 ウランバートル空港でも、一番大きい看板が、E航空のものである。
T社長とはすぐ打ちとけ、旅行談議に花が咲いた。 きまじめな人で、少しも飾らない。
さながら、十年の知己のように会話ははずんだ。 「Oe社長さん、ご安心ください。 私が保証人としてやりますから、Rを面倒みてやってください。」
「わかりました。T社長がそう言われるのですから、私も安心です。 外国の方ですから、色々あるでしょうが、便宜を計りますよ」
「よろしくお願いします。何から何まで、お心遣いいいただいて、本当にすみません。 契約には、私のお金を出しますので、敷金は私の預かりとして、考えてください」
そう言いながら、T社長は、残金を全て立て替えた。
連帯保証人の印鑑証明書も添付した。 完璧な形で契約を終えたので、当社はカギを二本渡した。
問題が起きたのは、それから一カ月半ぐらいしてからである。
ある日、突然、中年の紳士が店に入ってきた。
身長が高く、体格のガッチリした男で、濃紺のスーツにダンヒルのネクタイ姿である。 一見、商社マンスタイルだが、余り礼儀をわきまえていないらしく、無遠慮な話し方をした。
「私は、ダジュールにお世話になっているRの夫で、Uです。あの部屋を解約しますので、手続きに来ました」
応対に出たS嬢は、ドキリとした。
「解約ですか?Rさんでしたか。何も聞いておりませんけど」
「そうでしょう。私は彼女と結婚していて、アメリカに住んでいるのです。 この度、彼女をアメリカに連れて帰るので、解約したいのです」
「ちょっと待ってくださいよ。私共は、入居者であるRさんからは、何も聞いていませんけど」
そう言って、S嬢は、小走りに僕の所へととんできた。
「社長どうしますか?何だか変ですよ」
「よし、わかった。私が応対しよう」
僕は、ちょうど五分前に、保証人のT社長より電話を受けていた。
「実は、Rの夫であるUという男が、そちらに行きますので、追い返してください。Rは離婚したいのに、男が離さないのです。 解約する、と言うでしょうから、うまく断ってください。本人でないとできないとか、保証人の承諾が必要だとか。 ご迷惑をかけますけど、詳しい話は後でしますので、どうかお願いします。Rを助けてやってください」と、切実な声で頼まれていたのである。
ダジュールは、国道沿いのマンションで、音がうるさく、空いたらなかなか埋まらない。
家主はローンを抱えているので、必死である。
だから、Rさんが出ていったら、まずいことになる。
考えると、協力してやるか、と僕は気易く考えた。
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今は、消費者にあくどい人間が多く、不動産業者はいつも泣かされているのだ。
「契約を終えれば、いつ入居してもかまいません。 契約には、残金と勤務先等の書類が必要ですが、いつ契約に来られますか?」
「私、いそがしいョ。 明日、アメリカへ行って、帰るネ。 日本に帰ったら、すぐに入りたいネ」
「じゃ、二十日からでいいですか?保証人さんの書類も、そろえてくださいね」
「大丈夫。 話できているョ。二十日は、早いネ。 荷物入れるの、ニ十二日ネ。二日早いネ」
「いえ、日本では、入れる日から賃料が発生するのですよ。 本当は、今日からですけど、二十日にサービスしているのです」
「まだ入らない時、室代とるの、おかしいネ。 二十二日からに、してください」
困ったな、という顔で、K嬢は、僕の方を見た。 OKのサインを出した。
中国女性は、しっかり者で、交渉してくるのは当然だ。
「私、滞納しないョ、契約も、来るョ」
十二月分は日割計算となるが、いつから入るかで、日割計算が違ってくる。
K嬢は、何を勘違いしたのか、Rさんは真顔になり、身をそらして、声を大きくした。 「私、日本の大学出ているョ。
T大出ているョ。 T大出ているだから、何も心配なしョ」
手を振り上げて、大きなジェスチャーをしたので、K嬢は唖然とした。
Rさんは、自分は中国人なので、軽く扱われた、と勘違いしたらしい。
僕は、T大と聞いて、どうしてか知らないが、頭の隅で、カチンときた。
昔から、僕はT大の権威を認めない!T大生はただのガリ勉ぐらいにしか思ってない。 人より知識を早く習得したからって、威張るのはお門ちがいだ。
Rさんの前に立ち、にらみつけた。
「T大を出ていようがいまいが、関係ないでしょう。人間は、学歴で生きているわけじゃないですよ。 私はあなたが、契約をきちんと守るか、家賃をきちんと払うか、心配しているだけです。学歴で人間の上下は、決められませんね。 Rさんは、アメリカ、アメリカと言われますけど、関係ないですよ。私達は、契約をいつしてくれますか、と聞いているだけです。 渡米の話など、関係ないでしょう」
僕の出方にいくらかびっくりしたようであるが、「すみません。私、体いそがしいネ。 仕事しているし、大丈夫、収入あるョ」と、自分の主張を譲ろうとはしない。
「それでは、予約をありがとうございました。 今度は、契約をお待ちしております」
僕とK嬢は、彼女がドアを出ていく後ろ姿に、一礼した。
日本人と同じように。
「なかなかやるね。中国人のタイプだよ」
外国人相手にとまどっているK嬢を横目に、僕は感想を述べた。 よほどこの言葉が好きと見えて、RさんはまたT大出を連発した。
きっと、難しい日本の社会に入って、この単語を使えば、難題も吹きとび、よく扱ってもらえ中国では、大きな家に住み、羽振りの良い格好をし、外国に行ける人を高く評価し、尊敬する。
人に評価される為に見栄をはり、これ見よがしに主張する。
だが、あいにくここは日本である。 外国人などいくら威張った通用はしない。
「保証人承諾書は、必ず出してくださいね。 印鑑証明書付きですよ。印鑑、わかりますね。 中国から伝来したから、あなたのお国が本家ですよ。ビザもいりますよ」
「わかっています、社長。 会社勤めているだから、安心してください」
「日本語、上手ですね。話が上手だから、日本の習慣、わかるでしょうね」
「何でも、わかるネ。知らないところ、勉強中ネ。心配ないョ。私はT大出ているだから、大丈夫。」
保証人であるE航空のT社長が来社したのは、翌日である。
僕はモンゴルに旅行した時、現地のE航空に世話になったので、社名は知っていた。 ウランバートル空港でも、一番大きい看板が、E航空のものである。
T社長とはすぐ打ちとけ、旅行談議に花が咲いた。 きまじめな人で、少しも飾らない。
さながら、十年の知己のように会話ははずんだ。 「Oe社長さん、ご安心ください。 私が保証人としてやりますから、Rを面倒みてやってください。」
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連帯保証人の印鑑証明書も添付した。 完璧な形で契約を終えたので、当社はカギを二本渡した。
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「私は、ダジュールにお世話になっているRの夫で、Uです。あの部屋を解約しますので、手続きに来ました」
応対に出たS嬢は、ドキリとした。
「解約ですか?Rさんでしたか。何も聞いておりませんけど」
「そうでしょう。私は彼女と結婚していて、アメリカに住んでいるのです。 この度、彼女をアメリカに連れて帰るので、解約したいのです」
「ちょっと待ってくださいよ。私共は、入居者であるRさんからは、何も聞いていませんけど」
そう言って、S嬢は、小走りに僕の所へととんできた。
「社長どうしますか?何だか変ですよ」
「よし、わかった。私が応対しよう」
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「実は、Rの夫であるUという男が、そちらに行きますので、追い返してください。Rは離婚したいのに、男が離さないのです。 解約する、と言うでしょうから、うまく断ってください。本人でないとできないとか、保証人の承諾が必要だとか。 ご迷惑をかけますけど、詳しい話は後でしますので、どうかお願いします。Rを助けてやってください」と、切実な声で頼まれていたのである。
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